構造計算上無垢材は安全率が必要

伝統工法と許容応力度計算の違い

 大工技術は伝承され、受け継がれてきた日本の文化です。

そのような技で造られた伝統的建物を見て歩くのも好きですし、実際にそのような仕事に常に取り組んでいる仲間の大工もいます。

 

 伝統工法は金物に頼らず、やわらかく変形し、外力を逃がす特徴があります。

また、金物強度に頼らず、仕口・継ぎ手といわれる接続方法により材を組み合わせていきます。

 

 その伝統的な技術を求めるのであれば、直接そのような能力のある大工さんに直接仕事を依頼すべきであると思いますし、実際にそのようなアドバイスをしたこともあります。

 

金物に頼らない伝統工法に対して、 許容応力度計算では積極的に金物を使います。

もし自分に大工と同じ技があれば、金物は使わないかもしれません。

しかし残念なことにそこまでの知識と技術はありません。

 

 自分が信頼できるより安全な道を選んだ結果が許容応力度計算による構造検討なのです。

それに設計者が万能ではないように、大工さんの全てが高度な知識と技術を持っているとは限らない。と言うのも現実です。

 

 大工さんの技量は当然期待しますが、それに依存することは出来ないと言う考えの基で構造を検討しています。

 

 ただ見栄えとして、室内に金属が露出するのは極力避けたいので、大工さんと相談の上、伝統的工法を部分的に取り入れたり、金物は極力見えないような配慮をしています。

安全率20%と耐震等級2

 許容応力度計算の前提となるのは、使用する材料の基準強度ですが、無垢材には強度のばらつきがあり、一概に設定できません。産地や固体によっても違うのが悩ましいところです。

 

 構造技術者として計算だけを考えたときには、JASの基準で工場生産された、強度指定の集成材を使いたいところです。

 

 

 

 私が無垢材を計算に載せる場合は、標準的にその樹種が持つ強度(木材技術センター)に20%の余裕度(安全率)を見ています。

大工さんのように一本一本見極める目があればいいのですが、そこまでの経験と知識はありません。

 

 更にその上で、長期優良住宅の基準である建築基準法の定める強度+1.25倍(耐震等級2)をスタンダードとしています。

更に耐震等級をあげることも出来ますが、あまりにも構造的な制約が大きくなってしまい空間があまりにも制約されてしまうので、特別な耐震性を必要としない限り等級2までとしています。

 

 

構造のほとんどは見えなくなってしまいますし、しっかりしていて当たり前なので、興味のない方が大半だと思います。

それが普通だと思いますしそれでよいと思っています。

 

 我々技術者がプライドを持ってやればいいことなのです。

ただせっかくの構造なので出来るだけ見えるように使い安心感を得ていただきたいと思っています。

構造計算を行う理由

 前段の壁量計算の基準はS25年に簡易計算法として定められ、S56年宮城県沖地震を期に新耐震基準として強化されました。しかしH12年の阪神淡路では新耐震準拠の建物にも被害が多く、補強金物の義務化や壁バランスの検討などが追加されました。

 

 

 

しかし依然としてS25年からの簡易計算法の追加検討に過ぎず、高度な構造計算とは明らかに違います。

 

 度重なる制度改正により増やされた壁量をクリアーするため、単純に床面積・壁の見付け面で決まる壁量計算で強度を上げた住宅では、総2階で多くの壁に囲まれた自由度の無い、創意工夫の余地の無いプランニングになってしまいます。

 

 また、壁量計算では力の流れが把握できないばかりか、それぞれの材料に掛る負荷も把握できません。

「まあ、この辺に柱を追加しとけば大丈夫だろう」 

「このスパンならいつも梁寸法はこのくらいだから」

という部材選定になってしまいます。

 

 経験と感ですね。これはバカにしたものではありませんが、設計者が皆、熟練大工のような経験と感を培ってきたわけではないのは事実です。

 

 実際に私も計算入力はまず始めに仮定断面を自分なりに設定し入力しますが、Outになることがよくあります。

これは上からの荷重は把握しやすいけれど地震力のような水平荷重を感覚で把握するのが難しいためだと思っています。

 

 高度な構造計算では、固定荷重・積載荷重を拾い出し、風荷重・地震荷重・積雪荷重などの自然力によって生じる負荷が建物にどう影響するのか検証し、力の流れをつかみ、梁・柱一本一本に伝わる荷重まで算出し、安全を確認していきます。

 

 単純にバランスと壁の量だけで安全を捉えるのではないため、簡易計算に比べプランニングの自由度が増し、楽しい空間を造りやすくなります。

 

 これは我々にとっても大きなメリットとなります。

また、設計者として部材寸法の構造的根拠を把握しているか、そうでないのとでは仕事に対する余裕度も違ってくるのは明らかです。

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