損傷しても倒壊はしないこと  2012/11.24

 

損傷しても倒壊しないことが大事

 

1995年の阪神淡路大震災での死亡原因の80%相当、約5000人が建物の倒壊によるとされています。

密集した都市部であったこと、老朽化した住宅が多かったことも大きな要因の一部です。

この地震では瓦屋根の被害が多く映像として流されました。

古い瓦屋根は野地板の上に土を乗せる土葺きと言われる工法が主流でした。

土葺きの瓦屋根は90100kg/㎡となりますが、現在の瓦屋根は乾式工法といい、土を使わない軽量な工法になっています。

重量的には5060kg/㎡となり、土葺きの半分程度になり、固定方法もステンレスの釘ですべての瓦を固定する方法が主流になり、耐震性を上げています。

とは言ってもガルバリウム等の鋼板屋根は約15kg/㎡、スレート屋根は約2535kg/㎡ですからその重量差は大きなものがあります。

しかし瓦屋根だから耐震性が低いというのはあてはまりません。瓦の荷重に見合った構造で耐震性を高めていればよいのです。

 

大切なのはどれだけの地震荷重が構造体にかかるのかを把握し、「損傷しても倒壊はしない」という考え方で構造を組み立てることです。

 

 

「地震で壊れない家」は誰もが望むことだと思いますが、どのような地震が起こるかわいのですから壊れないと言い切るのは不可能なことなのです。壊れるのは仕方がないが倒壊はしないという考えが必要です、倒壊しなければ人の命を家が奪うことはないと考えましょう。

 

倒壊しないために最も重要なのは、意外なことに「間取り」です。

「フリープランですから何でもご希望の間取りをかなえます。」よく目につく宣伝文句ですがこれは危険なことです。

金物で固めるから大丈夫、構造用合板で囲うから大丈夫、制振装置を入れるから大丈夫、ではないのです。

まずはバランス、建物の重心(重さの中心)と剛心(強さの中心)の偏心を小さくし、ねじれた揺れを起こさないようにすることが大切です。

耐力壁も沢山あればよいのではなく、上階の筋交いで受けた地震力が有効に下階に伝えられ、土台を介して基礎に伝え地盤に逃がす、受けた力はどこかに逃がさなければいけません。

逃げ場のない力は構造体を破壊することでエネルギーを開放しゼロになろうとします。

上階の力を下階に伝える場合に、理想的なのは上の柱と、下の柱が同じ位置で、耐力壁の位置も揃っていることで、いわゆる田の字型プランが有効です。

ただ現実には、広いリビングが下階にあったりして上階の耐力壁の下に壁が無いという事態が起こります。その時に大切なのは耐力壁で受けた垂直の力を床面が受け、離れた場所の下階耐力壁に伝えることです。

 

この時に床の剛性が弱ければ、地震力を伝えきれず、床が破壊されます。

この場合の床に必要なのは上階の耐力壁と同等の剛性です。

床を固める必要があるのです。意外におろそかにされている場合がありますし、木造の大工さんでも意識されていない場合が多いのです。

もともと日本の大工さんが行ってきた伝統的な建物に床剛性を上げる。と言う考え方は一部の例外を省きありません。

基本的に上と下の柱位置が合致し、壁の位置も合致するのが伝統工法の基本です。

そのルールを守るのであれば極端な話し、構造金物が無くてもかなり安全なのだと思います。

大工さんの意識の低さはこのような経緯にもあると思います。

 

プレカット工法(PC入力によるマシーンカット)であっても柱と梁や梁と梁の接合部分に、木材同士がかみ合う、仕口や継ぎ手(伝統工法よりも簡素化されたもの)を指定しますし、たくさんの接合金物も指定します。(出来るだけ見えないように)

接合金物は仕口や継ぎ手が万が一破壊されても部材が落下しない。と言う安全装置の意味合いもあります。

 

私は設計者であり、大工としての技能者ではありません。

伝統工法を行う大工のように自分の存在をかけた仕事の中で金物を使わなくても大丈夫だ。とは残念ながら言えません。

木材と金物の相性がいいとも思いませんが、「間取り」、「バランスと床剛性」、「接合金物」が、損傷しても倒壊しない住宅をつくる上で大切なことだと思います。

もろもろの制約の中においても家で人の命が奪われないように、「尽くすべきは尽くす」これが大切な考え方です。

 

 

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